あかるい部屋写真と短歌のひとつきの記録 day1

「あかるい部屋」

今日から掲載されるこの連作は、
写真と短歌のひと月の記録です。

空という少年が撮った写真と、
芳乃という小説家が詠んだ短歌の30日間。

しかし、そのふたりは実在しません。
彼女たちは『あかるい部屋』という小説の中の登場人物で、
本稿このひと月の連作は、
小説に出てくるエピソードをもとに
作られた作中作なのです。

小説の後半では、
鬱になって書けなくなった小説家が、
はじめてカメラを持った少年の写真に触れて、
徐々に自分の言葉を取り戻していくという、
ダメージと回復の一ヵ月を描くシーンが出てきます。

ピアノの連弾のように、
他者のクリエイティブによって作られる新しい作品。
自分以外の人を求めてやまない今日、
自分の生活する部屋と近所で作られた作品は、
それだけで救いのようでもあります。

さて、この小説のテーマのひとつは
「生活とクリエイティブ」だったりします。

それは、
日常と非日常は両立できるのか、
と言い換えてもいい。

それは、
他人と個人は共存できるのか、
と言い換えてもいい。

それは、
やるべき事とやりたい事は矛盾しないのか、
と言い換えてもいい。

人はパンのみに生きるのではないし、
パンがなければお菓子を食べればいい、
というわけでもないのです。

ミーツとノー・ミーツ。
ダメージを受けたこの世界が、
やがて回復することを待ちながら、
生活の中で生まれるクリエイティブを、
見つけて拾い上げて、
そして慈しみたいと思います。

day1

「おやすみ」は小さな「さよなら」なのだろうひとりの夜がそこで待ってる
吉田周平
フォトグラファー。千葉在住。
本作では、道川空という少年が、カメラに出会い表現を始めるという創作の入口を描く。世界そのものを写し取る行為を、チェキ→35mm→中判フィルムというツールそのものの変遷でも描いている。
土門蘭
小説家。京都在住。
本作では、鈴木芳乃という女性が、空の撮る写真に触発されて長文ではなく短歌という形から、創作を取り戻していく姿を書く。芳乃は写真に短歌を添えるという形で連作としたが、最後は自ら言葉を紡ぐようになった。
ヨシダフミコ
書家。千葉在住。
本作では、鈴木芳乃の手書き文字を担当。弘法筆を選ばずといわれるが、実際には弘法大師にもお気に入りの毛筆があり、当人も同様にuni-ball Signo 0.28というボールペンでのみ文字を書く。一点一画をゆっくりと抑える、生活と創作のバランスそのもののような字を書く。

お知らせ

写真と短歌展
「あかるい部屋」
/ 吉田周平・土門蘭

日時:2020年夏予定
場所:CON-TENNA(ANTENNA OFFICE)
〒604-8261京都府京都市式阿弥町130 SHIKIAMI CONCON No.2
料金:無料

もともと5月に行う予定だった本展示でしたが、新型コロナウイルスの感染拡大のためリアルイベントを自粛していました。そこに「ノー・ミーツ」というWebの企画が舞い込み、このような形でお披露目をすることができたのです。ありがたいことです。しかしやはり、作品をWebで見ることと実際に見ることは、味わいが違います。どちらが優れているとかではなく、純粋に違うのです。

だから、この状態が落ち着いたら、また、実際に展示をしようと思っています。
先の状況が読めないので、夏の開催もずれ込んでしまう可能性があるのですが、いつか。
詳細決定次第、随時Webメディア『ANTENNA』にて公開いたしますので、何卒ご留意いただけますようお願いいたします。

作家ならびに事務局一同、皆さまにお会いできる日を楽しみにしております。
末筆ながら、お互いに心身ともに健康なまま、無事に過ごせますように。

そして、いつかお会いしましょう。

編集:平山 靖子(おかん)

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