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概要

temiyage_kansai_2016

45意外な名脇役すしなお●大阪市北区天神橋1-15-14206-6351-4191 10:00~19:00 火曜休クレジットカード:不可取り寄せ:可他に買える店:なし 江戸後期から四代続く持ち帰り寿司の店。戦前はもう一本西の筋で店を構えていたが、戦後すぐに現在の場所に移転。旧い家屋の三た たき和土には、市電の敷石が敷き詰められ、夏はひんやりと涼しげに、冬はキンと足下から冷え込むという。その入り口すぐの場所で作る鯖松前寿司は、九州をメインに800?900gの鯖を用いる。程よくレアに締めたそれをまな板に載せ、皮をひき、半身を開くように包丁を入れる。富山のコシヒカリを店の奥にしつらえた“へっついさん”で炊く寿司飯もバランスがいい。新米と古米を季節によってブレンドし、クヌギの薪を今でも使い続けている。 火を引いて20分、下ろしてさらに10分蒸らし、切って酢、砂糖、塩で味をつけ、冷まして寿司飯となる。鯖の身とその寿司飯を、型にはめるのではなく、ふきんで包んで絞るように成形。船底型の包丁でススッと切り分け、竹皮に包む。運良く作業しているところに出合えたなら、一連の動作に目を奪われるだろう。こればかりは店に訪れた者の特権だ。実に真面目で美しい。 ひと切れにかぶりつくとその身の華やかさがわかる。見た目には半透明な白板昆布と鯖の身の細かい脂のノリの良さが歯切れよく、むっちりとした反発と共に味わえる。程よい甘さの寿司飯もモチモチ感と数回噛むとほどけゆくタイムラグがあり、口の中ですべてが繊細に混ざり合っていく。その余韻を楽しもうと思った刹那、ワサビと海苔の風味がキタ?! アクセルを踏み込むかのように全部の味を引き立てる。レアな身の甘み、旨みをグイグイと押し出すのだ。 芝居もそうだが、世の中のすべての形あるものは、見た目の美しさや端正な様子が重んじられるのが世の常であったりもする。けれどもひとつ、確かなことがある。見えない脇役があってこそ、主役の華やかさや美しさが引き立つのだ…、なんてことさえも考えさせる鯖寿司。そのへんのところまで、贈った相手に伝わればさらに嬉しい。取材・文/曽束政昭 撮影/エレファント・タカ 直の鯖松前寿司戦後すぐから使い続けるへっついさん。その火力の強さで、5~6分で炊き上げる。炊き上がりが「一番難しい」と四代目。最近はピザ屋の影響でクヌギの薪が細く短くなったとも。