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概要

kyoto_artistar_blues

? 工房の風景になる。カメラも持たずにやって来る私に気を許してくれたのか?これまで誰にも言ぅたことないんやけどな?と、修業時代のエピソードや大切にしている道具のこと、子育ての難しさにいたるまで、いろいろと聞かせてくれた。 職人の多くは職住一体の生活をしているから、工房は自宅でもある。絢爛豪華な荘厳仏具が仕上がる隣の部屋では子供たちが遊ぶ声が聞こえ、台所では奥さんが夕飯の支度をしている。これがまた、たまらなくうれしかった。職人が仕事を見せるということは、生活を見せること。私が見たかったのは?いかにも職人?な作務衣姿ではなく、職人がふだん愛用しているキャップとジャージだったから。 紹介が途絶えて困ったときには電話帳を眺めた。京都の電話帳の職業別分類には? 蒔まき絵え?や?数珠製造?、?湯のし?といった項目がちゃんとあった。いくらページをめくっても尽きない?絹織物?の欄に京都の手仕事の厚みを実感し、いったいこの取材はいつ終わるのかと気が遠くなった。 そんな日々からおよそ10年が経って、私はまだ数珠?ぎをして、電話帳をめくっている。ただ、以前とは違って職人にあれこれ質問するし、記事も書かなくちゃいけない。生半可な知識のおかげか取材で緊張することは少なくなったけれど、鉋かんをなかける音だけひたすら聞いているような時間も減った。振り返れば、工房の風景でいることが許されていたあの頃はなんと贅沢だったのだろうか、と思う。 ぶっきらぼうなのは人見知りだから。無口なのは指先で覚えた仕事を言葉で説明するのがもどかしいから。本当は人一倍やさしくて、情に厚く、親方から受け継いだ手仕事にこれでもかと誇りを持って仕事に向き合っている。  本書に登場するそんな京職人たちの泣き笑いに、そして、その様子に驚愕する私の姿に、現代の京都に息づく伝統の技を感じていただければうれしく思う。