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概要

kyoto_artistar_blues

?? 蒔絵師の道具箱には、百の魂が入っている。 漆うるしは幅広い材料との相性が良く、天然の万能塗料ともいわれるが、蒔絵のように繊細な意匠を表現するためには、その扱いや作業環境に細心の注意を払う必要がある。歴代の蒔絵師たちは、それをあまたの動物たちの力を借りることで克服してきた。 蒔絵師が使う根ね朱じ筆ふで(※1)に使われているのは、木造船の船底に棲んでいる野ネズミの背中の毛、もしくは脇毛。?そのへんにいるネズミじゃダメなんですかね??。私のそんな質問に蒔絵師は首を横に振るばかりか、追い打ちをかけるように? 土ど蔵ぞうにいるネズミの毛もかなりいいね?と続ける。 木造船とは、穀物を運ぶ船を指さしている。そこに棲み着いた野ネズミは、米粒を腹いっぱい食べて毛先まで栄養が行きわたっている、というのがその理由だ。土蔵もまた同じ。そして、船底や土蔵に棲んでいては野原を駆け回ることがないため、毛先が擦すりきれずにしっかりと残っているのだという。それもとくに背中と脇に。 なんだか迷信のような言い伝えにもちゃんと合理的な理由が存在するのだ。家に棲むネズミはダメだし、腹の毛だってダメだ。ボート出身のネズミでは立派な筆になることはできない。 蒔絵筆には、ほかにもウマやタヌキ、ネコ、リス、イタチなどの毛も使われる。いずれも先人が厳選した顔ぶれだ。ふんわりとやわらかく、まとまりもあるネコの毛は筆や刷毛にも使われるし、漆面に蒔いた金粉を掃き寄せる毛け棒ぼう(※2)には、なんとムササビの毛が使われている。(※1)根朱筆……蒔絵模様を描くための精細な筆。硬さのある野ネズミの毛は、真??直ぐな線も、なめらかな曲線にもぴ??たり。現在、困難とな??ている野ネズミの捕獲だが、かつては船乗りたちの良い副業だ??たという。(※2)毛棒……金粉を払うためのものを「あしらい毛棒」、作業絵筆はわくわく動物ランド