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概要

kyoto_chuka

 京都の中華料理屋さんを取材していると頻繁に出るのが、店の常連あるいは常連だった映画人たちの話。なぜなら京都は、日本映画発祥の地。時代劇映画の一大産地として全盛期を迎えた昭和30年代には、多くの撮影所と製作プロダクションが集中する太うずまさ秦が「日本のハリウッド」と呼ばれた。差し入れは「焼やきめし飯茶漬」 「映画のお仕事もけっこうな肉体労働ですから、きっと中華が食べたくなるんでしょうね」 映画人はなぜ中華を好むのでしょう、と訊くと、? 盛せいきんてい京亭?(P64)のご主人・上う えだたかお田隆雄さんがそう返してくれた。太秦全盛期の昭和26年(1951)の創業で、店には市いちかわらいぞう川雷蔵が鳴なるたき滝の自宅で妻の誕生日パーティーに?盛京亭?の出張料理を楽しむ写真記事も残る。日本の名だたる名優はもちろん、ジョン・ウェイン、チャールズ・チャップリン、スティーブ・マックイーンも食事に来たそうだ。 この店で生まれ、映画人にも好まれたのが「焼やきめし飯茶漬」である。 「もともとは歌舞伎役者さんがやり出さはったものなんです。南座で歌舞伎がかかると、幕まくあい間に抜け出してごはんを食べにきはるんですよ。化粧のままで、大慌てでね。それである役者さんが、焼飯にお茶をさーっとかけて、かき込まはった。そしたらこっちも反射的にぬか漬け出した(笑)。それが評判になっていったんです」 若い頃に?盛京亭?で修業した、? 盛せ いかてい華亭?(P14)初代の佐さ さき々木三みつ義よしさんが教えてくれた。 焼飯茶漬が重宝されたのには、もうひとつ理由がある。?盛京亭?の修業初日に、銭形平次( 大おおかわはし川橋蔵ぞう)、水戸黄門( 東と うのえいじろう野英治郎)、うっかり八兵衛( 高た かはしげんたろう橋元太郎)が目の前に座った経験を持つ? 八はちらく楽 ?(P36)の高た かいてるお居照男さんが話す。 「焼飯をお持ち帰りしはると、どうしても冷めますよね。でも当時は電子レンジもないし、炒めると油っぽくなるし。で、熱いお茶をかければ温かく食べられる。?盛京亭?の焼飯はお茶をかけても油が全然浮きませんし、具に味がついてるからおいしいんです」 ?盛京亭?の初代は、そんな「温め方」も指南しながら、太秦の撮影所へよく焼飯を差し入れに行っていたそうだ。捜査中にワンタンメン? 太秦といえば、東映京都撮影所。その正門そばにある? 開かいほう花 ?は、昭和46年(1971)創業の中華料理店。撮影所の食堂的存在だ。自家製麺+自家製皮のワンタン+自家製焼豚が入った絶品の「ワンタンメン」(600円)をはじめ、全品500円前後なのが泣ける。 「うちは照明部とか撮影部とかの若い子らがお腹すかして来るんでね。できるだけ値段おさえてやらんと。全部自分とこで作ったら、一番安く、おいしくできるしね」 2代目主人・内う つみしんや海真也さんの父は、実は? 芙ふ ようえん蓉園?(P26)の出身。本書でも紹介している「鳳ホウオンタン凰蛋」が、ここでは「かしわ玉子丼」として丼になっているのが面白い。 「映画の人らはさっさと食べ終わらんとあかんからね。丼は圧倒的に注文が多いです」 もちろん、撮影途中の俳優さんたちも食べにやって来る。 「羽は ぶたえ二重(かつらを着ける前の「焼飯茶漬」。[盛華亭]では所望されれば焼飯にお茶と漬物を添える。