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概要

SHIZEN_NO_KAKERA

鹿角のユリ その青年と出会ったのは一昨年の暮れだった。 彼はまだ無名の彫刻家で、僕がいけばなの仕事の傍ら運営するギャラリーで展覧会ができないかと相談にやってきた。その日青年が話したことを、僕は生涯忘れることはないだろう。 それは凍いてつくような冬の山中でのこと。彼は知人の猟師に同行して狩りに出た。そこで一頭の雌鹿を仕留める。彼らはその肉を分け合い、最後には白い骨だけが残った。彼はその骨をずいぶん長い間眺めたり、手の中で感触を確かめたりした後、ついに彫り始めたのだという。 使い込んだリュックサックから取り出された幾つかの桐箱。その中に納まっていたのは白く透けるような小さな花弁のひとひらだった。その姿はまるでたった今落花したかのような儚さをたたえ、そこにあった。そう、彼は骨から花を彫ろうとしていたのだ。 「では来年、展覧会で」そう約束を交わし、彼は去っていった。 白く透ける骨の花弁に心をつかまれたまま足早に一年が過ぎた。そして青年ははかな