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概要

SHIZEN_NO_KAKERA

 不覚をとった。 美しいと一瞬打たれた後に悔しさが押し寄せた。 その日は終日街中で慌ただしい日を過ごしていた。人に会ったり、知人の展覧会に足を運んだり、こまごま細々とした雑用を片付けていく。久々に出る街中ではいつもより早く時間が流れる。最後の打ち合わせを兼ねた夕食を終えて、地下鉄に飛び乗った時にはもう終電近くとなっていた。乗り換えの駅で降りて、階段を上がる。 足元ばかりを見つめていた視線を上げたその時、色の洪水のような花々が目に飛び込んできたのだった。階段出口でしばし呆然と立ち止まり、そのまとわりつくような色彩に見とれていた。 ようやく正気に戻り、自分が見ている花の正体を理解した。それは出口真正面にある、いわゆるラブホテルの入り口に飾られた大量の造花であった。 悔しい。いつもならば造花なぞ鼻にもかけない、あんな枯れることもない花の正体なんてすぐ見破ってやると思っていたのに。ユリ・シャクヤク・キク