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概要

SHIZEN_NO_KAKERA

 誰だってタンポポの綿毛にふっと息を吹きかけて、種を空に遊ばせた記憶があるだろう。僕はいまだに、欠けることのないまん丸の綿毛なんかを見つけるとすぐに手が伸びてしまう。せっかく見つけた完全な形を吹く風で崩したくなくて、掌で大事に覆って持って帰ったこともある。もちろんいけるために。 小さな器に収まった綿毛は、いけばなと呼ぶには余りにささやかで、あくまで僕がしばし眺めるためのもの。十分楽しんだら、また空に飛んでいく春の客人のような花。羽根を春風に広げて振り返りもせず飛び出していくタンポポは、もうそれだけで立派な旅人。風任せの偶然なんて気にもかけず、種たちは次の場所を目指す。小さな体に偶然を必然に変える強い意志を秘めて飛ぶ彼らの姿は、空の下どこまでも朗らかだ。 隣り合った人とひととき交わす偶然の会話のように、いろんな花たちとの出会いを書きとめておきたい、いけてみたい。誰が見ていなくても、聞いていなくても花がそこにいるのだから。そんなささやかな出来事のようないけばなを、僕はやはりいけばなと呼びたい。伝統や事の大小なんて、ひとまず横に置いて、花とタンポポてのひら